意思決定能力
(Decision Making Capacity)
意思決定能力とは、ある特定の選択の場面において、合理的に判断し、意思表示できるか、という具体的・臨床的な概念である。したがって、法的な枠組みではなく、医療者や支援者が、個々の状況に応じて、適切に相手は判断を下せるかどうかを評価するものになる。
医療における意思決定能力は、治療に関連した情報を収集し、比較検討し、選択するという意思決定に至る心理的過程の各段階において必要とされる精神機能を指す。一般には、
- 治療に関連する情報を理解する(理解: understanding)
- 得られた情報を論理的に操作する(論理的思考: reasoning)
- 治療の行われる状況や治療により生じる結果を認識している(認識: appreciation)
- 治療に関する意思決定の結果を他人に伝達する(選択の表明: expression)
の4つの能力が関係する。
これらの要素は、固定的なものではなく、その状況や体調によって変動する。たとえば、予防接種に同意する場合とがん治療に同意する場合では、生命や身体に関するリスクが異なることから、求められる理解や認識の程度は異なる(予防接種に伴うリスクは低い一方、がん治療に伴うリスクは高いことから、より高度の理解や認識が求められるからである)。
意思決定能力の概念を導入する意義は、臨床現場においては、法的な「意思能力」があるかどうかよりも、むしろ目の前の患者がこの治療に関して適切に意思決定をできるかどうかが重要であるからである。たとえば、軽度の認知症があったとしても、一定の治療については、十分に理解をし、判断することが可能である。そのような患者に対して、一律に「認知症だから判断できない」とするのではなく、具体的にわかりやすく解説するなどし、本人の認知能力に応じた支援を提供することを通して、本人の判断能力を補うことができる。本人の状況に応じて柔軟に対応することで、患者の尊厳と自己決定の尊重につなげることができる。
参考文献
- 厚生労働省 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン 4P
- 平成27年度 老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業分)認知症の行動・心理症状(BPSD)等に対し、認知症の人の意思決定能力や責任能力を踏まえた対応のあり方に関する調査研究事業報告書