【老年医学】
論文タイトル:
Respiratory viral infections awaken metastatic breast cancer cells in lungs
呼吸器感染症が乳がんの休眠がん細胞を覚醒させ、肺転移の引き金となることを示したNatureの論文(マウスモデル+疫学データ)です。
■マウスモデル:インフルエンザA型ウイルスまたはSARS-CoV-2感染後、肺に潜伏していた乳がんの休眠がん細胞は急速に増殖を開始、2週間で転移性病変を形成
- IL-6は休眠がん細胞覚醒への関与が示唆された
- CD4 T細胞は覚醒したがん細胞維持への関与が示唆された
■疫学データ:
乳がん原発診断後にSARS-CoV-2罹患歴のある女性患者では、非感染患者に比べて肺転移リスクが増加(HR=1.44)
雑誌名 :Nature
PubMed :https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40739350/
PMID :40739350
DOI :10.1038/s41586-025-09332-0
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【老年腫瘍学全般】
論文タイトル:
International Comparison of Geriatric-Associated Variables in Major Gastroenterological Surgery Between National Clinical Database and American College of Surgeons National Surgical Quality Improvement Program
高齢化の進行に伴い、高齢者に対する悪性疾患手術は増加しています。高齢患者は併存疾患やフレイルを多く抱えるため、
若年者と同じ手術・周術期管理では十分ではなく、老年医学的観点を取り入れた外科医療が求められています。本研究は、
日本と米国それぞれの全国データベースを活用し、消化器がん手術を受けた高齢患者における老年学的因子と手術成績の
傾向を国際比較した初の解析です。
研究では、日本のNational Clinical Database(NCD)2,703例と、米国のAmerican College of Surgeons National Surgical Quality Improvement Program(NSQIP)1,342例を対象としました。いずれも65歳以上で、がんに対する
主要7術式を受けた患者が含まれています。両国のデータを比較したところ、呼吸困難、高血圧、出血傾向、緊急手術
などの術前併存症は加齢とともに増加しました。一方、肥満や緊急手術の割合は米国でより高い傾向を示しました。
術後合併症の発生率は年齢との明確な関連を示さず、むしろ老年学的要素に左右されることが示唆されました。
注目すべきは、認知機能関連の指標(認知症既往、代理人同意、せん妄など)は両国でほぼ同程度だった一方で、
移動能力(歩行補助具使用、転倒歴、転倒リスク)や術後の機能的自立度の低下は米国でより多くみられた点です。
これは、日米間でのリハビリテーション体制や介護文化の違いを反映している可能性があります。
本研究は、加齢に伴う老年学的変化のパターン自体は両国で類似している一方、移動能力や機能的回復の側面で
大きな差があることを明らかにしました。高齢者外科領域においても、フレイルや機能評価など老年医学的視点を
国際的に共有することの重要性が示されています。
雑誌名 :Annals of gastroenterological surgery. 2025 Sep;9(5);1093-1103.
PubMed :https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40922921/
PMID :40922921
DOI :10.1002/ags3.70021
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【老年腫瘍学 全般】
論文タイトル:
Multi-dimensional analysis of adult acute myeloid leukemia cross-continents reveals age-associated trends in mutational landscape and treatment outcomes (Acute Myeloid Leukemia Cooperative Group & Alliance for Clinical Trials in Oncology)
急性骨髄性白血病(AML)における年齢の影響は、「非高齢/高齢」といった明確な区切りで変わるものではなく、
年を重ねるごとに連続的に変化していくことを示した統合解析です。
AMLの治療や臨床試験では、これまで「60歳未満/60歳以上」といった年齢による二分法が用いられてきた。
しかし、米国(Alliance/CALGB)とドイツ(AMLCG)の臨床試験データ2,823例(18〜92歳)を対象に行われた国際共同解析は、この前提を根本から問い直し,年齢の影響が連続的に変化することを明らかにした。
研究チームは、強力なシタラビン系化学療法を受けた未治療AML患者を対象に、年齢を5歳刻みの連続変数として扱い、遺伝子変異、細胞遺伝学的リスク(ELN2022分類)、および治療成績(完全寛解率・早期死亡率・全生存期間)との関連を精密に検討した。
その結果、NPM1、DNMT3A、FLT3-ITD/TKDなどの主要なドライバー変異の頻度は年齢とともに徐々に変化したが、どの年齢にも
“境界”と呼べる明確な転換点は統計学的にも認められなかった。また、全生存期間は加齢とともに滑らかに低下し、予後が急変する
年齢閾値は認められなかった。分子サブタイプ別の解析でも、年齢は独立した連続的予後因子であり、遺伝子型にかかわらずその影響は一定していた。
暦年齢は単なる数値指標に過ぎないと感じていますが、暦年齢が高いほど脆弱性が増すことも臨床的に経験しています。その意味で、この論文の結果には非常に納得がいきました。すなわち、暦年齢は集団を「非高齢者/高齢者」と二分するためのものではなく、連続的な指標として用いるべきという点に同意します。もちろん、これは医学的観点からの話であり、行政的な運用上は暦年齢で区分せざるを得ないことも理解できます。
雑誌名 :Leukemia. 2025 Sep 19.
PubMed :https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40973764/
PMID :40973764
DOI :10.1038/s41375-025-02644-0
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